ジャスト・キッズ
冒頭のパティの幼少期のエピソードがいい。
公園でパティは1羽の美しい鳥を目にする。興奮する娘に母が「白鳥ね」と教える。「白鳥」と口にしながら、それが自分の経験した美しさや感動を何も表していないことに苛立ちを感じ、それをなんとか表現したいという激しい欲求の芽生えを感じる幼いパティ。
そう、この物語はなによりまず、美に対する感受性の豊かな一人の少女が、さまざまな経験を潜り抜けながら世界の驚異を表す自分自身の言葉の獲得に向かっていく話である。
少女期から表現としてのアートへに傾倒していた彼女は、思わぬ妊娠・出産を機に単身故郷を離れ、NYでの半端ない貧窮生活の中で、精神的な双子ともいうべきロバート・メイプルソープと運命的な出会いを果たす。このあたりのエピソードは、どれもマジかってくらいドラマチックでおもしろい。
僕が好きなのは貧乏な二人が美術館に二人で入る金もなく、交代で一人ずつ入って、あとでお互いに報告しあっていたというエピソードだ。

そんなある日、私たちはオープンして間もないアッパーイーストサイドのホイットニー美術館を訪れた。このときは私が入る番で、ロバートと一緒に入れない後ろめたさを感じながら入場した。展示作品については、もはや思い出すことができない。が、美術館の変わった台形の窓をのぞき込み、外にいたロバートの姿を確認したことだけは覚えている。道を渡り、パーキングメーターに背を持たれ、煙草を吸っているロバートの姿を。
私を待っていてくれたロバートと地下鉄に向かう途中、「いつかは一緒に入ろう。そしてそのとき展示されているのは僕らの作品なんだ」と彼は言った。

60年代末から70年代初頭の狂騒的なNYのアートシーンを背景に、自分たちの芸術を求めるふたりの冒険が繰り広げられ、やがてそれぞれの道に別れていくことになる。ふたりの友情は80年代後半ロバートがHIVに倒れても終生変わらない。冒頭の白鳥のエピソードも、また、美術館のエピソードも、リフレインのように終盤ふたたび触れられ、感動をもたらす。
ノンフィクションだというのに、ふたりの物語はまるで小説のようにドラマチックで美しい。ただ、この古典的ともいえるビルドゥングス・ロマンを陳腐なものにしないのは、紹介されるエピソードの細部の豊かさを記すパティの視線の的確さ、そして詩的なイメージにあふれた表現力だ。この物語が上梓されたのがメイプルソープの死から20年を経た2010年、それだけの時間をかけてはじめて、二人の愛と青春のきらめきを物語として再構成することに成功したのだ。

河出書房新社
発売日:2012-12-20
スポンサーサイト

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

【2013/01/12 11:41】 | | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<ノイズ新年会(1/12、難波BEARS) | ホーム | 正月日記>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://outofmind.blog47.fc2.com/tb.php/1534-100ab1f7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |